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札幌地方裁判所 昭和58年(わ)1331号 判決

本籍

北海道岩見沢市一二条西二丁目五番地三

住居

右同所

歯科医師

山口繁友

昭和一九年八月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大久保博通並びに弁護人馬杉栄一及び同日浦力各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岩見沢市四条西六丁目所在の中央バスターミナルビル三階において、「山口歯科医院」の名称で、歯科医業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、自由診療収入の一部及び預金利息収入を除外するなどの方法によりその所得を秘匿した上

第一  昭和五五年分の実際総所得金額が七、二四四万一、六七〇円であり、これに対する所得税額が三、三三〇万七、一〇〇円であるにもかかわらず、同五六年三月一六日、同市二条東四丁目五番地の一所在の岩見沢税務署において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が四、二九三万一、四一五円であり、これに対する所得税額が一、七一五万八、七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額とその申告税額との差額一、六一四万八、四〇〇円を免れ

第二  同五六年分の実際総所得金額が六、八二六万〇、一九八円であり、これに対する所得税額が二、八八七万四、九〇〇円であるにもかかわらず、同五七年三月一五日、前記岩見沢税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が三、九二五万九、五五八円であり、これに対する所得税額が一、四九六万三、六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額とその申告税額との差額一、三九一万一、三〇〇円を免れ

第三  同五七年分の実際総所得金額が七、一七三万六、二五八円であり、これに対する所得税額が二、九五四万九、一〇〇円であるにもかかわらず、同五八年三月一五日、前記岩見沢税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が三、九九二万四、五二五円であり、これに対する所得税額が一、五四六万六、八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額とその申告額との差額一、四〇八万二、三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(八通)

一  被告人作成の上申書(五通)

一  大蔵事務官作成の「収入金額調査書」、「仕入金額調査書」、「期末商品棚卸高調査書」、「外注加工費調査書」、「措置法適用差額調査書」、「青色申告控除額調査書」、「利子所得調査書」、「調整率適用経費差額(その他所得)調査書」、「利子所得(その他所得)調査書」、「現金調査書」、「定期預金調査書」、「その他の預金調査書」、「有価証券調査書」、「受取利息調査書」、「有価証券利息調査書」、「源泉所得税調査書」と各題する書面

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書(昭和五九年五月二六日付・九通、同年六月二三日付、同年八月二日付、同月三一日付)

一  押収してある昭和五三~五七年分所得税の確定申告書等綴一綴(昭和五九年押第二五九号の二二)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五五年分)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五六年分)

一  押収してある昭和五六年度分診療収入ノート一冊(昭和五九年押第二五九号の一〇)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五七年分)

一  押収してある昭和五七年度分診療収入ノート一冊(昭和五九年押第二五九号の一一)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条(但し、判示第一の所為については刑法六条、一〇条により昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)に該当するところ、右各罪につきそれぞれ所定の懲役と罰金を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとするが、本件は、脱税額において三年間で合計四、四一四万二、〇〇〇円と多額にのぼり、ほ脱率も平均四八・一パーセントと決して低いものではなく、また被告人は本件脱税に至った動機を縷々述べているが、もとよりそのいずれも本件脱税を正当化してその刑責を減じうるものとはいえず、その他特に憫諒すべき動機もないなど全体として極めて悪質な脱税事犯であるが、他方被告人は本件の摘発を受けるや素直に調査に協力し、当公判廷においても本件を反省しており改悛の情が認められるうえ、すでに修正申告を済まして合計六、八〇七万二、四〇〇円にのぼる本税、重加算税及び延滞税を納付ずみであり、かつ、もっぱら被告人の責に帰すべきものとはいえ、利子所得について総合課税をされた結果税率において相当な不利益を被っており、さらに、本件が新聞報道されたことも一因となって歯科医院の患者が減少するなどすでに一定の社会的・経済的制裁を受けており、また、被告人にはこれまで前科前歴がないなど被告人のために酌むべき情状もあるので、同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。(求刑 懲役一〇月及び罰金一、一〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 永井敏夫 裁判官 戸倉三郎)

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